施設間連携

電子処方箋により地域全体で患者を支える医療サービスを。
病院と薬局との間で積極的に情報共有を行い、地域内の連携も強化

広島県安佐地域対談
						宮森伸一 安佐市民病院
						下田代幹太 びーだま薬局
						立石朝香 日本調剤 安佐北薬局
						中原千彰 日本調剤株式会社

広島県安佐地域では、2023年1月20日時点で医療機関5施設と薬局17施設が電子処方箋のシステムを導入しています。地域における電子処方箋の導入は、どのように進められたのでしょうか。また、導入によって、地域医療への貢献や連携の強化などの変化はあったのでしょうか。病院・薬局それぞれの視点で、広島市立北部医療センター安佐市民病院薬剤部薬剤主任部長の宮森伸一さん、びーだま薬局の管理薬剤師で安佐薬剤師会会長の下田代幹太さん、日本調剤株式会社広島支店薬剤部薬剤一課課長の中原千彰さん、日本調剤 安佐北薬局店舗責任者で管理薬剤師の立石朝香さんにお話を伺いました。

※文章中、敬称略。

電子処方箋導入の経緯について

電子処方箋の導入に至った背景や経緯についてお聞かせください。

宮森:
電子処方箋は、情報共有や医療安全という観点から、いずれ導入することになると考えており、安佐市民病院としては、後回しにせず今やるほうがよいとの想いで、早期導入を病院全体の意向として決めました。ただ、気になったのは近隣の医療機関や薬局のことです。電子処方箋は、一つの医療機関だけが導入しても十分には機能しません。特に薬局の場合、電子処方箋の対応の有無で患者さんは、これまでのかかりつけの薬局から別の薬局を検討しなくてはならなくなる状況があります。薬局と患者さんとの間でこれまで築かれてきた関係性が新しい技術を導入するからといって、簡単に捨てて良いとは思えません。導入するならできるだけ多くの地域の薬局が参加してほしいと考え、まず取りかかったのが地域の保険薬局をまとめる安佐薬剤師会会長の下田代先生への相談でした。

広島市立北部医療センター安佐市民病院薬剤部薬剤主任部長の宮森伸一さん。

下田代:
お話をいただき、電子処方箋の導入は、医療機関や薬局のさらなる連携強化に役立つと思いましたし、「電子処方箋の対応の有無によって患者さんが他の薬局を検討しなければならない状況は避けたい」という認識も宮森先生と一致していましたので、薬剤師会としてぜひ協力したいとお答えしました。びーだま薬局としても、今後デジタル化が避けられないことを考慮すると、早いうちに導入しておいたほうがいいだろうと判断しました。

中原:
日本調剤として医療DXを進めている最中でしたので、電子処方箋は当社の取り組みと合致するものでした。また、日本調剤安佐北薬局としても近隣住民の地域医療を支えるべく運営していますので、電子処方箋は地域医療に貢献するためにも必要なことと考え、地域の推進に足並みをそろえて早期導入することにしました。

日本調剤株式会社広島支店薬剤部薬剤一課課長の中原千彰さん。

導入にあたって、苦労した点はありましたか?

立石:
電子処方箋を導入すると聞いた段階では、現場の薬剤師はそもそもどんな仕組みなのかさえわかっていませんでした。まずは社内でたくさんの情報提供を受けて現場でも理解を深めました。しかしそれだけではなく、地域内で協力しながら進めていたので、安佐市民病院を筆頭に、わからないときの解決策や改善点などを相談できる先があったことも有効でした。例えば、電子処方箋を初めて受け入れたときに、当薬局での調剤結果の登録がうまくできているかどうか、病院側でも確認できるかどうかを、宮森先生とやり取りして確認していただきました。今もたくさん助けていただいています。システム上の連携だけでなく、人脈の繋がりもできたので、より円滑になったと思います。

宮森:
日本調剤 安佐北薬局とは以前からやり取りがありましたが、電子処方箋の件で頻繁に連絡を取り合ったので、電話番号を完全に覚えてしまいましたね(笑)。

電子処方箋導入に伴う地域内連携について

それだけ、地域内で密に連携しながら導入を進めたということでしょうか?

宮森:
電子処方箋は、地域全体で導入を推進できるのが一番良いのではないでしょうか。そのためには、病院薬剤師がハブのような機能を果たすのが良いだろうと思い、自分がその役割を果たすように努めてきたつもりです。電子処方箋は、医療機関と薬局とで伝達事項などの情報交換もできる仕組みですが、システム業者ごとの画面表示やレスポンスなどの違いがあり、それぞれで正しく情報のやり取りができていることを確認する必要がありました。このため、電子処方箋の導入にあたっては、システム業者に加えて、病院の薬剤師、薬局の薬剤師が積極的に情報交換することがより効果的だと考え、地域の薬局とこまめにやり取りをして、システム動作の不安解消に繋げていきました。
安佐市民病院は地域の中核病院ですので、当院が地域の中でリーダーシップを取り、さまざまな物事を進めるべき立場にあると思っています。当院が率先して薬局と連携し、意見を吸い上げてシステム事業者に情報提供することで、今ではシステム業者にノウハウが蓄積されたと思います。

下田代:
安佐薬剤師会としても、さまざまなシステム業者と話をして、各社の状況について所属している薬剤師に情報共有したり、逆にシステム業者にもフィードバックをしたりと、宮森先生をフォローする形で、地域内の連携を進めていきました。そういった情報を地域で連携しておくと、トラブルが発生した場合に、電子処方箋のシステムに問題があるのか、病院の電子カルテシステムに問題があるのか、あるいは薬局での操作の方法が間違っているのか、円滑な原因特定にもつながっていきました。

びーだま薬局管理薬剤師で安佐薬剤師会会長の下田代幹太さん。

地域全体で連携しながら導入を進められたことがよくわかりました。以前から病院と薬局の間には密接な協力関係があったのでしょうか?

下田代:
安佐市民病院と安佐薬剤師会は、新型コロナウイルスのワクチン接種をお手伝いさせていただくなど、既に協力関係がありました。一つの目標に向かって一緒に取り組んでいくことは、さらなる信頼関係の構築という点でも意義がありますし、連携が進むことは患者さんのためにもなると思います。

宮森:
トレーシングレポートも追い風になりましたね。薬局から大量の情報を送っていただいていましたので、逆に入退院支援などの際に、こちらから薬局にも情報を伝えられないだろうか、といった展開もありました。日頃から各自がそれぞれの役割を果たしたうえで、顔の見える関係ができていると、今回の電子処方箋のような大きな事業が来たときにも、やっぱり相談がしやすいように思います。

電子処方箋の導入によって、地域における医療機関や薬局の連携やコミュニケーションはさらに強化されたと感じますか?

下田代:
電子処方箋をきっかけに、さまざまな先生のご意見を伺う機会が増えました。顔の見える関係の拡大に役立っていると私は思います。医療を提供する側の関係性が深まると、患者さんにもメリットがあると、今までの経験を踏まえても感じるんです。その上で、薬剤師が処方箋の情報に対してコメントを記載することで、病院の先生に見ていただけるのであれば、非常にコミュニケーションを取りやすくなるのではないでしょうか。

宮森:
現時点では、「調剤情報が閲覧できるかどうか」といった基本的なことで精一杯なのですが、病院で処方した薬剤の調剤結果が閲覧できるのは新鮮ですね。今後、医師からコメントを付けることも増えるでしょうし、逆に調剤時にこんな説明をしましたといった情報が薬局から戻ってきて、次の外来時に確認することも出てくるのでしょう。コミュニケーションツールとしての大きな可能性を感じます。病院の薬剤師にこういった形でのコミュニケーションが求められてくるということを、職員に伝えていこうと思っています。

電子処方箋を導入したことによる変化

電子処方箋について、今後期待することはありますか?

宮森:
先ほどのコミュニケーションの話にも関連しますが、地域全体で普及がされていけば、得られた調剤情報等を用いて患者さんのアセスメントにも活用できることを期待しています。

中原:
電子処方箋の導入が進むことによって、現時点と過去の正確な情報を薬局で手軽に取り入れることができますので、患者さんの背景を踏まえた上で調剤・服薬指導ができるようになるでしょう。薬局と医療機関との情報連携が円滑になることで、患者さんに提供できる医療の質が高まることを期待しています。

立石:
電子処方箋と同時に、マイナ保険証の利用もますます進むと思います。マイナンバーカードを提示していただくことによって、お薬の服用状況だけでなく、受診している医療機関の情報も確認できます。当薬局では、電子処方箋のメリットを最大限に生かせるよう、患者さんに対してマイナンバーカードを持参していただくような案内を積極的に行っています。マイナンバーカードを利用する患者さんも明らかに増えており、患者さん自身の意識も変化してきていることを実感しています。

日本調剤安佐北薬局店舗責任者で管理薬剤師の立石朝香さん。

中原:
すぐに持参率を上げるのは難しいと思うのですが、早くから現場でお声がけして、電子処方箋をはじめマイナンバーカード持参のメリットもお伝えするようにしています。

電子処方箋の導入を検討している医療機関・薬局にメッセージはありますか?

下田代:
患者さんの処方情報が得られるということは、それだけ患者さんの状況をしっかり把握して調剤に役立てられるということですので、非常に意味があることですし、今後導入が拡大していけば、よりよい医療の提供のために不可欠なシステムになると思います。早期に導入しておいて、私は良かったと思っています。

宮森:
電子処方箋の事業では、患者さんの処方・調剤情報をどの医療機関・薬局でも共有できるという点が非常に重要なポイントを占めていますので、遅かれ早かれ導入することになるはずです。また、地域で協力し合って導入することで相乗効果もあると思います。

中原:
アナログからデジタルへの変化によって、確実に医療の質は上がりますし、患者さんの利便性も向上します。患者さんに対するメリットの提供を先延ばしする理由はないはずですので、電子処方箋も早期に導入するのが良いのではないかと思います。

立石:
以前は、患者さんのお薬の情報は、病院は病院、薬局は薬局というふうに、個々で管理されていましたが、電子処方箋の導入によって連携する機会が増えるでしょう。今後はオンライン診療やオンライン服薬指導にもつなげることができます。早期に導入することで、それだけ患者さんのメリットも大きくなることが期待されますね。

広島市立北部医療センター安佐市民病院

〒731-0293 広島県広島市安佐北区亀山南1-2-1

TEL:082-815-5211(代)

https://www.asa-hosp.city.hiroshima.jp/

日本調剤 安佐北薬局

〒731-0223 広島県広島市安佐北区可部南5-13-14

TEL:082-819-3190

https://www.nicho.co.jp/tenpo/asakita/

びーだま薬局

〒731-0125 広島県広島市安佐南区大町西1-1-11

TEL:082-870-6422

https://www.bi-dama.co.jp/

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