
医科診療所の事例
「人が人に向き合う時間を増やす」ために。
― 診療所で実現した診察券の廃止とマイナ自動受付(チェックイン)
医療法人筒井医院 2026年9月掲載
筒井医院(岡山県小田郡矢掛町)は、無床の地域診療所として、内科・外科を中心に地域の一次医療を幅広く担っています。患者の約6割を60歳以上が占める高齢地域にありながら、従来の診察券を廃止し、マイナンバーカードによる自動受付(チェックイン)を導入しました。マイナ保険証の利用率はレセプトベースで約9割にのぼります。
はじめに ― 実現した受付の全体像
当院では、患者さんがマイナンバーカードを顔認証付きカードリーダーに通して認証を済ませ、隣のタッチパネルで予約内容をワンタップで確認するだけで、自動受付(チェックイン)が完了します。予約システムから予約・問診済みの方や院内予約をされている方は、窓口に行くことなくそのまま座って診察を待つことができます。従来の診察券は廃止したため、持参や紛失の心配もありません(受付とシステムの流れは動画・図をご覧ください)。
こうしたデジタル化の根本にあるのは、「人が人に向き合う時間を増やす」という考え方です。機械やシステムに任せられることは任せ、職員は患者さんへの声かけや説明に、医師や看護師は診療やケアに、より多くの時間を使えるようにしたい——その入り口として、診察券とマイナンバーカードの一体化や自動受付の仕組みづくりに取り組みました。
実際の受付の様子。マイナンバーカードをかざし、画面をタッチするだけで受付が完了します。

マイナンバーカードをカードリーダーに通し、画面をタッチするだけで本人確認・資格確認・受付が完了。
「患者さんにとって分かりやすいメリットを」
― 診察券との一体化に取り組んだ背景
もともと当院ではマイナ保険証の利用率が高かったのですが、「マイナ保険証だけでは、患者さんにとって利用するメリットが実感しにくい」と感じていました。そこで、診察券を廃止してマイナンバーカードでチェックインできるようにすれば、患者さんは診察券を持参する必要も紛失の心配もなくなり、資格確認から受付までがその場で完了する——という分かりやすいメリットを提示できると考えました。

筒井医院 副院長の筒井理仁さん。
「患者さんにとって便利か」「職員に無理がないか」
現場発の相談から生まれた“マイナ自動受付(チェックイン)”
きっかけは、当院で利用しているクラウド型電子カルテ『CLIUS(クリアス)』を提供する株式会社DONUTSから、受付機能の新サービスのご提案を受けたことでした。当初ご提案いただいたのは、患者さんの予約画面に表示されるバーコードを読み取ってチェックインする方式でしたが、それでは患者さんの操作が増えることが気になりました。そこで、患者さんの利便性を考え、「マイナンバーカードでそのままチェックインできる仕組みにできないか」と相談しました。実現可能性を検討してくださった結果、この仕組みが形になりました。提案をそのまま受け入れるのではなく、自院に合う形を見極め、「患者さんにとって便利か」「職員に無理がないか」を重視しました。
いいえ。導入を進めた自動受付の仕組みが、電子カルテと同じベンダーの機能として提供されていたため、資格確認から受付処理までが最初から連携しやすい形でした。別々のツールを組み合わせると「連携不足でかえって作業が増える」ことがありますが、その懸念が少なかったのです。機器も、大がかりな専用受付機ではなく、汎用のパソコンとタッチモニター、レシートプリンターを既存システムと組み合わせて構成しました。発注から運用開始までは、およそ1か月ほどでした。
また、導入に踏み切れた理由としては、既存の受付業務の流れと非常に近かったことも大きいです。従来は、電子カルテの受付画面に表示される予約患者の一覧から、職員が来院した患者さんを探して手動で受付していました。マイナンバーカードによる自動受付は、この作業を自動で行う形になるため、職員にとっても動きがイメージしやすく、比較的スムーズに導入できました。

受付エリアの機器。大がかりな専用受付機ではなく、汎用パソコン・タッチモニター・顔認証付きカードリーダー・レシートプリンターで構成している。
診察券廃止までのプロセスについて
段階的に進めました。2025年1月にマイナンバーカードによる自動受付を開始した時点で、受付で診察券を提示いただくことを不要としました。ただし当初は、次回の予約日を診察券の裏面に記入してお渡ししていたため、診察券は「予約日の控え」として残していました。その後、裏面への記入もやめて予約確認票(診察後)を印刷してお渡しする運用に変更し、新規の患者さんへの発行も取りやめて、診察券をなくしました。裏面への手書きでは転記ミスも生じていたため、印刷に切り替えることでミスの防止にもつながっています。
職員からは当初、抵抗がありました。診察券の裏面に公費の区分や患者番号を記入していたため、「それがないと困る」という声がありました。しかし「今のシステムでは不要になる」と説明し、実際に使ううちに納得が広がりました。患者さんについては、たくさんの診察券の中から探す手間や紛失の心配がなくなり、好意的です。ご高齢の方は、最初は診察券を出そうとされますが、「もう使いませんよ」とお伝えすると納得され、クレームもありません。

「焦らなくなった」 ― 一体化と自動受付による効果
受付の対応にかかる時間を、大きく減らすことができました。一体化と自動受付の導入により、職員が直接受付対応を行う患者さんの数は、従来のおよそ半分になりました。窓口で対応する場合も、マイナ保険証の利用率が約9割まで高まったことで、資格確認書などを目視で確認して保険資格情報を入力する作業が減り、受付業務全体が大幅に効率化されました。あわせて、これまで手作業で生じていたミスも減り、レセプトチェックのための残業もほぼなくなりました。
受付の混雑が減り、以前のように焦って対応することがなくなりました。その分、待合の患者さんの様子を見る時間が生まれています。「受付は済んだけれど、少し体調が悪そうだ」「本当は聞きたいことがあるのではないか」——そうした患者さんに、以前よりゆっくり対応できるようになりました。
余裕が生まれたことで、職員のほうから患者さんに歩み寄れるようになり、自然と笑顔で応対できる場面も増えました。患者さんの側からも、「これで大丈夫ですか」「次回の予約はどう取ればいいですか」といったちょっとした相談を寄せてくださることが増え、その一つひとつにきちんとお応えできています。職員にも患者さんにもゆとりが生まれ、患者さんが通院のイメージを描きやすくなったと感じています。デジタル化で生まれた時間を、人が人に向き合う時間に充てられている実感があります。

“中間的な担当者”と無理なく ― 現場への定着の工夫
ホームページや院内のデジタルサイネージ、地域のローカル放送でも周知しましたが、最も効果的だったのは、受付の現場で職員が患者さんのそばについて操作を案内することでした。初めての方は年齢を問わず戸惑いやすいので、その場で「どこを押せばよいか」をお伝えしています。職員自身にも患者さんと同じ操作を体験してもらい、操作手順は標準化してマニュアルにまとめました。
システムを導入する際は、まず医療事務と看護の各部門で一名ずつ先に習熟してもらい、その担当者から他の職員へ広げるようにしています。全員に一斉に教えると同じ質問が集中してしまいますが、この「中間的な担当者」を置くことで、現場での定着がスムーズになりました。Web予約についても、サポートが必要な方に無理にお教えするより、つまずくご高齢の方には院内で予約をお取りする、という棲み分けにしています。ご自身でWeb予約をしたい方には、操作手順をまとめた簡単な資料を用意してご案内しています。患者さんに無理をさせないことを大切にしています。

「正しい」だけでなく「使いやすい」を
― 今後の展望と、これから取り組む医療機関へ
自治体との情報連携が進み、医療費助成の医療証もオンラインで確認できるようになれば、受付はさらに効率化されると期待しています。医療機関同士で診療情報を共有できる仕組みや、患者さんがご自身の健康情報にアクセスできる仕組み、AIの活用にも期待しています。デジタル化は、制度として正しいだけでなく、現場で実際に使いやすいことが重要だと考えています。
まずは自院のマイナ保険証の利用率を確認することが大切です。利用率が低いままでは、一体化してもメリットを実感しにくいためです。そのうえで、既存の電子カルテや受付システムと、どこまでスムーズに連携できるかを確認しておくとよいと思います。連携が不十分だと二重入力が増え、かえって負担になりかねません。ベンダーへの相談に加え、医師同士のコミュニティなどで中立的な情報を集めることもおすすめします。難しく考えすぎず、まずは①自院のマイナ保険証利用率の確認、②既存システムとの連携の確認、③ベンダーへのご相談——という一歩から始めてみてはいかがでしょうか。

【ご案内】マイナンバーカードの診察券利用に係る助成金について
診察券とマイナンバーカードの一体化にあたっては、レセプトコンピュータや電子カルテの改修等を対象とした費用補助がございます。導入を検討される医療機関等は、補助の対象や申請条件、申請期限等を、下記のポータルサイトからご確認ください。
▶ 医療機関等向け総合ポータルサイト:マイナンバーカードの診察券利用に係る助成金について
※本欄の補助に関する情報は2026年9月時点のものです。
※ 本記事は、医療機関における取り組みの一例をご紹介するものであり、特定の事業者・製品を推奨するものではありません。記事内で紹介した自動受付(チェックイン)システムに関する製品仕様・導入等のお問い合わせは、提供元の株式会社DONUTSへお願いいたします。
・株式会社DONUTS クラウド型電子カルテ『CLIUS(クリアス)』
公式サイト:https://clius.jp
・お問い合わせフォーム:https://clius.jp/inquiry/